歯型のくぼみと突起で見分ける
マウスピースは、患者一人ひとりの歯型に合わせて作られるため、必ず個々の歯の形状に合致する「くぼみ」や「突起」があります。これを利用すれば、装着すべき上下の判別や、表裏の誤りを防ぐことが可能です。
たとえば奥歯のくぼみは、マウスピースの形状の中でも特に分かりやすいポイントで、上顎用と下顎用では高さや形状が異なります。下の表にその代表的な違いをまとめました。
マウスピース上下の歯型のくぼみと突起の違い
| 比較項目 |
上顎用マウスピース |
下顎用マウスピース |
| 奥歯の高さ |
高め・厚め |
低め・薄め |
| 前歯の傾斜 |
やや外向き |
やや内向き |
| 突起の有無 |
装着の方向により位置が変化 |
噛み合わせの裏側にやや出っ張りがある |
| 唇側形状 |
滑らか |
ややフラット |
| 舌側形状 |
若干湾曲 |
より湾曲している |
ロゴマークや突起物の位置で判断する方法
マウスピースの表裏や上下の向きを見分ける際、視覚的に最もわかりやすいのが「ロゴマーク」や「小さな突起物(ナンバリング、リブ、アタッチメント用の凹凸)」の存在です。特に、透明なインビザラインやカスタムマウスピースでは、見た目の左右対称性が高く、慣れていないと間違えやすいため、このような視覚的なサインを利用することが極めて有効です。
まず基本的なルールとして、製品ロゴやマーク、型番、番号、記号が刻印されている面が「外側(頬側)」とされるケースが大半です。これは製造時に視認性を高めるためのものであり、メーカーによってはロゴが装着時に隠れないように外側に配置されています。
ロゴや刻印による向きの確認方法
| チェック項目 |
内容例 |
判断基準 |
| メーカーのロゴ |
INV、L、R など |
ロゴが外側に見える向きが正しい |
| 製品番号 |
1〜40、A1、U4 など |
番号が読みやすい向きが表(唇側) |
| 突起の配置 |
内側中央に小突起あり |
突起が内側=歯に接する面と判断 |
| リブ(補強構造)の位置 |
側面の縁近く |
リブが頬側または外側にある場合が多い |
| 色付きの印 |
青・赤などのマーク |
上顎・下顎の識別用。青=下顎、赤=上顎が多い |
フィット感・違和感から察知するチェック法
マウスピースの上下や表裏を正しく判別できない場合でも、装着時の「フィット感」や「違和感」は、装着ミスを察知する大きな手がかりになります。特に、マウスピース矯正(インビザラインなど)や歯ぎしり防止用のナイトガードは、患者ごとに精密に作られており、正しい向きで装着したときにのみ高い密着性と快適性が得られるよう設計されています。
では、装着時にどのような感覚をチェックすれば良いのでしょうか?以下に、判断材料となる「装着時の体感的な違い」をリスト化して解説します。
マウスピース装着時のフィット感による確認ポイント
| 判別ポイント |
正しい向きの場合の状態 |
誤った向きでの典型的な違和感 |
| 全体の密着度 |
全体にぴったり吸い付くようなフィット感 |
片側に隙間ができる、浮きやズレを感じる |
| 歯列への圧力 |
適切に押されている圧力感。痛みは感じにくい |
特定の歯に強い違和感や圧迫感。圧力の偏りを感じる |
| 装着時の音 |
「カチッ」と装着される音 |
途中で止まる、もしくは無音のまま違和感が残る |
| アタッチメントとの一致 |
アタッチメント部にマウスピースのくぼみが一致する |
アタッチメントが浮く、ハマらない |
| 着脱のしやすさ |
少し力を入れれば外れる。リムーバーも使いやすい |
極端に外れにくい、または簡単に外れてしまう |
正しい向きで装着すると、「これが正解」と感じるフィット感があり、上記の表のように全体が安定しているのが分かります。逆に、何か一部が歯から浮いていたり、押されすぎて痛みがあったりする場合は、表裏や上下を誤っている可能性が極めて高いです。
また、装着時に「痛み」があることは特に重要なサインです。もちろん矯正の初期段階では多少の締め付けや違和感を覚えることもありますが、痛みが局所的・強く・継続的に発生する場合は、装着向きが間違っている可能性があります。この場合、無理に装着を続けず、歯科医院に確認を取ることが重要です。
特に注意すべきは、上下逆に装着してしまうケースです。上顎用のマウスピースを下顎に装着すると、フィット感が合わず、奥歯や犬歯付近に強い違和感が出るのが典型です。これにより、かみ合わせが狂い、噛み合わせのズレから顎関節症状を引き起こすリスクさえあります。